Japanese Only
服薬ケア研究所受付・案内に戻る
POS研究室に戻る

ヴィ・ザ・ヴィ特集

薬剤師が記録する目的とその方法2

保険薬局における
POSの導入と実践

医薬分業率が高まり、保険薬局が担う医療に期待が寄せられています。
保険薬局においても、薬歴簿にPOS(Problem Oriented System)が有用なことはいうまでもありません。
しかし、POSを用いている保険薬局はいまだ少なく、手探り状態ではないでしょうか。
そのような中でPOS導入に踏み切った、今川薬局の取り組みについてご紹介します。

【取材協力】
岡村祐聡
 今川薬品株式会社調剤事業部次長
今川薬品株式会社は、茨城県を中心に保険薬局を展開し、新規にオープンする店舗を中心 に、POSの導入を試みている。岡村氏は教育・研修を担当し、薬剤情報提供やPOSに注力し ている。インターネットでは「服薬ケア研究所」というホームページ(http://www.ne.jp/asahi/fukuyaku/care/)を主催し、実践的なPOSの学習法なども紹介し ている。

1POSを導入する前に

 保険薬局において薬歴簿にPOSが有効と分かっていても、導入できない、あるいは導入しても長続きしない施設が多く見られる。その原因として、忙しくて記録に時間がかけられないことの他に、「POSでいうプロブレムをみつけることが難しい、SOAPの各項目が書けない」ことがあげられる。
 POSを活用するためには、導入の前提として、薬剤師にプロブレムの分析能力が求められる。プロブレムは、ファーマシューティカルケアを基盤として見い出されるものである。すなわち、プロブレムの分析能力を備えるということは、薬剤師が保険薬局で提供すべき医療の概念を明確に持つことにもつながるのである。今川薬局では、保険薬局における医療概念を「服薬ケア」と名付け、再構築を試みている。
 POSを導入することにより、薬剤師一人一人がファーマシューティカルケアの概念を確立することができることも、POSのメリットの1つといえるだろう。

2薬識の把握

 プロブレムをみつけられないことがPOSの運用を難しくさせている。しかし、薬識に焦点を当てることで、プロブレムを明確にすることができる。
 保険薬局を訪れる患者さんの多くは、慢性疾患で比較的病状が安定している。「薬の飲み方は分かっている、飲み忘れもない、薬の知識もある程度は持っている」という患者さんには、プロブレムがないように思える。そこで薬識に注目するのである。
 同じ病状・同じ処方が続く患者さんでも、その時々の薬識は前回来局した時とは異なっている。患者さんの理解が深まったり、関心が別の問題に移ったりと、薬識は常に変化するものだ。
薬物治療の効果を最大限発揮させるセルフケアのための薬識を「理想的な薬識」とすると、「その時点の患者さんの薬識」と「理想的な薬識」との間に相違点が生じてくる。それが、プロブレムとなる。
薬識を把握し、POSを用いて情報を整理すると、患者さんの問題点が明らかになる。すると、次に何をするべきか、どう患者さんと関わればよいかなど、具体的な方針がみえてくるのである。
 
薬識患者さんが服薬に関するケアを自分自身で行うことができることを目標に、患者さんが持つべき薬の知識および認識のすべて。

3患者さんの気持ちを中心にした窓口対応

 保険薬局におけるファーマシューティカルケアの主な目標は、患者さんのセルフケアを支援し、QOLの向上をめざすことである。したがって、日常生活や薬識に関係した問題に重点がおかれる。
 面談において、患者さんの気持ちに着目することも、POSの活用における大切なポイントだ。SOAPにおけるS情報やO情報を収集し、薬識を把握するために、今川薬局では、最近、カウンセリング技法を重要視している。
 カウンセリング技法はコミュニケーション手段の1つであり、患者さんの問題点を理解するために役立つ。
 基本的には、患者さんから質問されたら「どのような気持ちから質問したのか」を尋ね、理解する。
 たとえば、患者さんから「この薬を飲まなくてはいけないだろうか」と不安そうに話しかけられたとする。薬剤師は「そうですよ」と答えて話を終わらせてはいけない。『不安』な気持ちが起きた原因を取り除かなければ、問題はいつまでも解決しない。「副作用が不安なのか」「薬を飲んでいることを勤務先に知られるのが不安なのか」、質問の根底にある気持ちを聴いていくことで本当の原因がみえてくる。その結果、薬剤師は適切な情報を提供することができ、患者さんも安心して服用を続けられるようになる。
 「患者さんに個人的なことを質問したら怒られた」「そんなことまで聞いていいのかしら」と質問をためらう薬剤師もいる。それでは質の高いファーマシューティカルケアを提供できない。医療人であるという誇りと認識をもつ薬剤師ならば、自信をもって患者さんに質問をすることができ、患者さんにも受け入れられるだろう。
 POSに加えて薬識、カウンセリングが保険薬局におけるファーマシューティカルケア実践の3つのキーワードといえる。

SOAP形式の記録での問題点とその対策
SOAP形式で書けない理由の代表的な例対策
Problem●「処方はDo(前回と同じ)、容体も変化がなく、問題点が見つけられない」
院外処方の場合は、多くは慢性疾患の患者さんで、比較的安定した症状を示す。
薬識を把握することや患者さんの気持ちに着目することから、患者さんのプロブレムが見えてくる。
Subject data●「話を聞こうとすると、患者さんに嫌がられる」
ゆっくり面談する時間がない。また患者さんも薬局で病院と同じことを聞かれることに抵抗感を持つ。
S情報を得るためには、工夫や技術が必要である。患者さんが「Yes」「No」で答える質問ではなく、気になっていることを話しやすいような質問を面談に交える。
Object data●「カルテを見られないからO(Object data)が書けない」
情報源は処方せんしかなく、検査値などの情報を得ることができない。
検査値などの客観的数値だけがO情報ではない。外来患者さんの治療の成否は、患者さんの意志や意欲に大きく左右されるため、保険薬局では、客観的に見た患者さんの様子・認識などがO情報になる。薬識をチェックすることが重要である。
Assessment●「アセスメントがわからない」 患者さんにどのような医療を提供するか、という薬剤師のケアの目的を理解しておくことが大切である。
Plan●「2週間に1度会うだけで、プランを実施していくことができない」
2週間または1カ月間に1度、2〜3分話すだけの関わりでは、何か問題があったとしても、それに対するケアを計画して実施することは困難である。
今後の計画を綿密に立てて実施することは、現実には難しい。
Planとしては、話の内容に応じて薬剤師がその時に行ったこと、および今後の計画を記載 する。今川薬局では、「今後の計画」を記載するときに、次回にどの薬剤師が窓口で対応 しても注意が喚起されるように、「今後の計画」を四角で囲み区別するといった工夫を凝 らしている。